Exporter's productivity and the cash-in-advance payment: Transaction-level analysis of Turkish textile and clothing exports
輸出者の生産性と前払い契約の利用:トルコの繊維・衣類輸出に関する取引レベル分析
Kemal Türkcan, Yushi Yoshida and Taiyo Yoshimi
2024
Open Economies Review, published online (February)
概要
論文
この研究では、輸出者の生産性が前払い契約(Cash-in-Advance: CIA)の選択にどのように影響するかを検証する。分析には、2009年から2017年にかけてのトルコの繊維および衣類輸出の取引レベルデータに、企業情報を統合して構築したパネルデータを利用する。ここでは、輸出者の生産性とCIAを選択する可能性との間に非線形の関係があることを明らかにする。生産性が高い輸出者はCIAを選択する傾向があるが、この傾向は生産が高まるほど弱くなる。本稿では、企業の生産性の異質性を考慮した理論モデルを構築し、これらの実証結果の根拠を提供する。また、CIAが小規模取引や法の支配が弱い国々への輸出で利用されやすいこと、1人当たりの国内総生産が低い相手国に対して利用されやすいことも示す。加えて、リラの価値が相手国通貨に対して低い場合にもCIAは利用されやすい。
Kemal Türkcan, Yushi Yoshida and Taiyo Yoshimi
2024
Open Economies Review, published online (February)
論文
Tariff rates in gravity
グラビティ・モデルにおける関税率
Kazunobu Hayakawa and Taiyo Yoshimi
2023
The Journal of International Trade & Economic Development, published online (November)
概要
論文
本論文では、二国間で複数の関税スキームが利用可能な場合を考慮したグラビティ・モデルを構築する。構築したグラビティ・モデルを用いて、利用可能な税率をグラビティ・モデルにおいて考慮しない場合に、重要な推定バイアスが生じることを示す。推定するグラビティ・モデルに利用可能な関税率をコントロールする固定効果が含まれていない場合には、利用可能なすべての税率をグラビティ・モデルに組み入れる必要がある。貴金属の貿易データを用いた推定結果から、利用可能なすべての税率が貿易額に対して負の影響を持つことが示される。しかし、一般関税の低下が常に貿易促進効果を持つわけではなく、例えば革製品では、一般関税の影響は有意ではない一方、優遇関税は負の影響を持つことが分かった。
Kazunobu Hayakawa and Taiyo Yoshimi
2023
The Journal of International Trade & Economic Development, published online (November)
論文
Quantifying the costs of utilizing regional trade agreements
自由貿易協定利用に関する費用の定量化
Kazunobu Hayakawa, Naoto Jinji, Nuttawut Laksanapanyakul, Toshiyuki Matsuura and Taiyo Yoshimi
2023
The World Economy, Vol.46, Iss.12 (December): 3542-3570
概要
論文
本研究は、地域貿易協定(RTA)の利用に関連する2種類の観測困難な費用を定量化するアプローチを提案する。第一の費用は原産地規則を満たすために中間投入財の調達源を調整する際に発生する費用である。第二の費用は、原産地証明書の文書作成費用など、RTAを利用するために必要な追加の固定費用である。タイの中国からの輸入にこのアプローチを適用すると、第一の費用の中央値は単位生産費用の4%に相当するとの推定結果が示される。また、第二の費用について、RTA利用には通常の輸出にかかる固定費用に対して、追加で27%の固定費用が必要であることが明らかになる。さらに、これらの費用を削減することでRTA利用がどの程度促進されるかをシミュレーションする。
Kazunobu Hayakawa, Naoto Jinji, Nuttawut Laksanapanyakul, Toshiyuki Matsuura and Taiyo Yoshimi
2023
The World Economy, Vol.46, Iss.12 (December): 3542-3570
論文
Firm-level utilization rates of regional trade agreements: Importers' perspective
企業レベルの自由貿易協定利用率:輸入企業の視点
Kazunobu Hayakawa, Nuttawut Laksanapanyakul and Taiyo Yoshimi
2023
Journal of Asian Economics, Vol.86, 101610 (June)
概要
論文
本研究で我々はまず、タイの取引レベル輸入データを用いて、地域貿易協定(RTA)の企業レベルでの利用状況についてのエビデンスを提供する。2つの特徴的な事実が示される。第一に、RTA加盟国からの輸入にRTA税率を利用している企業とそうでない企業が存在する。第二に、RTA税率を用いてRTA加盟国から輸入する企業の中には、全取引にRTA税率を利用する企業もいれば、一部の取引にのみ利用する企業もいる。これらの観察結果を説明する要因として、輸入者の需要規模(総輸入額)の役割に焦点を当てる。具体的には、総輸入額が大きい輸入者ほど、企業×製品レベルでのRTA利用率が高いことを明らかにする。また、RTA税率の利用割合が輸入者によって異なるのは、輸入者の総輸入額の違いに起因することを示す。また、最恵国関税率とRTA税率の差が大きいほど、RTA税率の利用割合が高いことも明らかにする。
Kazunobu Hayakawa, Nuttawut Laksanapanyakul and Taiyo Yoshimi
2023
Journal of Asian Economics, Vol.86, 101610 (June)
論文
The Balassa-Samuelson model with job separations
貿易財・非貿易財部門間の離職率の違いを考慮したバラッサ・サミュエルソンモデル
Noel Gaston and Taiyo Yoshimi
2023
Japan & The World Economy, Vol.65, 101172 (March)
概要
論文
部門別の離職率を考慮した小国開放経済モデルを構築し、バラッサ・サミュエルソン(BS)効果を検証する。離職率の違いは補償賃金仮説に基づく部門間の賃金の差を発生させる。当該モデルに日本のデータからカリブレートしたパラメータを適用し、非貿易財部門が貿易財部門に比べて高い賃金と高い離職率を持つという日本経済の特徴を再現する。貿易財と非貿易財が補完関係にある場合、貿易財部門での生産性向上により、労働は貿易財部門から非貿易財部門へ移動し、BS効果は弱まる。非貿易財部門の離職率が貿易財部門に比べてより高いほど、貿易財部門の生産性向上は非貿易財部門の賃金を相対的に大きく上昇させ、貿易財部門から非貿易財部門への労働移動を促進させる。ただし、離職率の違いに関わらず、貿易財部門の生産性向上は正の所得効果を通じて失業率を低下させる。対照的に、非貿易財部門での生産性向上は実質為替レートを引き下げ、失業率を上昇させる場合がある。
Noel Gaston and Taiyo Yoshimi
2023
Japan & The World Economy, Vol.65, 101172 (March)
論文
The effect of the COVID-19 pandemic on South Korea's stock market and exchange rate
COVID-19の感染拡大が韓国の株価と為替レートに与えた影響
Takeshi Hoshikawa and Taiyo Yoshimi
2021
The Developing Economies, Vol.59, Iss.2 (June): 206-222
概要
論文
本研究では、新型コロナウィルスのパンデミックが韓国の株式市場と為替レートに与えた影響を検証する。2019年1月2日から2020年8月31日までの日次データを用いて、新規感染者数の急増が株価指数のボラティリティを増加させ、外国投資家による国内株式保有の減少を引き起こし、間接的に韓国ウォンの価値を下落させたことを示す。新規感染者数急増後7日程度経過した段階で投資家が韓国ウォンを買い戻し、それにより若干韓国ウォンが増価した可能性を指摘する。また、韓国銀行による為替介入は為替水準に短期的かつ限定的な効果を与えた一方、為替レートのボラティリティに対しては有意な影響を与えなかった。
Takeshi Hoshikawa and Taiyo Yoshimi
2021
The Developing Economies, Vol.59, Iss.2 (June): 206-222
論文
Tariff scheme choice
関税スキームの選択
Kazunobu Hayakawa, Nuttawut Laksanapanyakul and Taiyo Yoshimi
2021
Review of World Economics, Vol.157, Iss.2 (May): 323-346
概要
論文
本論文では、最恵国(MFN)税率および、複数の地域貿易協定(RTA)税率の輸出者による選択確率の決定要因について検証する。2014年のタイの取引レベル輸入データを使用して、離散選択モデルを推定する。その結果、取引額が大きい場合にRTA税率が選ばれる可能性が高いことが分かった。RTA税率の中でも、原産地規則が緩いものや関税率が低いものが選択されやすい傾向にある。本論文では、定量的な政策的含意を提供するために、推定結果に基づくシミュレーション分析も行っている。
Kazunobu Hayakawa, Nuttawut Laksanapanyakul and Taiyo Yoshimi
2021
Review of World Economics, Vol.157, Iss.2 (May): 323-346
論文
How does import processing time impact export patterns?
輸入手続きにかかる時間が輸出パターンに与える影響
Kazunobu Hayakawa, Nuttawut Laksanapanyakul and Taiyo Yoshimi
2019
The World Economy, Vol.42, Iss.7 (July): 2070-2088
概要
論文
本研究で我々は、輸入手続きにかかる時間が輸出パターンに与える影響を分析する。まず理論分析において、輸入手続きにかかる時間が輸出総額のみならず、輸出の輸送頻度や輸送ごとの輸出額にも影響を与え得ることを示す。さらに、理論分析から得られた命題について、2007年から2011年におけるタイの企業レベル取引データを用いて検証する。実証分析では、輸入手続きにかかる時間を、税関に到着してからコンテナヤードを出るまでにかかった日数として定義する。
本研究の主要な発見は、輸入手続きにかかる日数が長くなると、特に輸出の輸送頻度低下を通じて輸出総額を低下させるという点である。また、輸出の一回当たり輸送額に対しては、いくつかの推計で負の影響が観察される。さらに、輸入手続きにかかる時間が長くなると、総輸入額を低下させるということも明らかになる。ここでも、総輸入額の低下は主に輸入の輸送頻度低下を通じて発生することが示される。
Kazunobu Hayakawa, Nuttawut Laksanapanyakul and Taiyo Yoshimi
2019
The World Economy, Vol.42, Iss.7 (July): 2070-2088
論文
Choosing between multiple preferential tariff schemes: Evidence from Japan's imports
複数の特恵関税スキームが存在するときの関税スキーム選択:日本の輸入におけるエビデンス
Kazunobu Hayakawa, Shujiro Urata and Taiyo Yoshimi
2019
Review of International Economics, Vol.27, Iss.2 (May): 578-593
概要
論文
TPPやRCEPといった多数の加盟国を含む地域貿易協定をメガRTAと呼ぶ。今後メガRTAが増えれば、メガRTAに含まれる二国が既に二国間FTAを結んでいるという状況が多く発生すると考えられる。こうした状況では、企業は輸出をする際、既存の二国間FTAの特恵関税スキームとメガRTAの特恵関税スキームのどちらを選択すべきかという問題に直面する。本研究では日本の輸入データを用いて、複数のRTA特恵関税スキームが存在するときの、企業の関税スキーム選択について分析を行う。ここでは、あるRTA関税スキームの利用率は、当該RTA関税率と負の相関(own effect)を、その他の併存するRTA関税率と正の相関(cross effect)を持つことが明らかになる。また実証分析から、own effectとcross effectの規模は、それぞれ二国間RTAと多国間RTAにおいて大きいことが示される。
Kazunobu Hayakawa, Shujiro Urata and Taiyo Yoshimi
2019
Review of International Economics, Vol.27, Iss.2 (May): 578-593
論文
Exchange rate pass-through at the individual product level: Implications for financial market integration
個別製品レベルの為替パススルー:金融市場統合への示唆
Kai Po Jenny Law, Eiji Satoh and Taiyo Yoshimi
2018
North American Journal of Economics and Finance, Vol.46 (November): 261-271
概要
論文
本研究で我々は、日本とタイにおける中古建機のオークション価格データを用いて、個別製品レベルの為替パススルーを計測する。特に、日本で仕入れが行われ、タイで再販された建機について、仕入れ時点と再販時点の間の為替変動が、再販価格にどのような影響を与えたか分析を試みる。個別製品価格に着目して為替パススルーを計測することで、価格指数を用いた場合に発生する集計バイアスを回避することができる。我々の分析では、タイバーツが円に対して増価した場合にはバーツ建て再販価格が低下するものの、減価した場合には有意な反応がないという、非対称的なパススルーが観察される。バーツ高局面では低いバーツ建て売上であっても、日本円建ての仕入れ価格を賄うことができるため、仲介業者は低いバーツ建ての再販価格を受け入れやすい。また、価格下落は再販時の買い手にとっては望ましいことであるため、競争の厳しいオークション市場ではこうした価格の変化が発生しやすかったものと考えられる。一方、価格上昇は買い手に受け入れられにくいものであるため、バーツ安局面においても再販価格の上昇が実現しなかったものと予想される。
Kai Po Jenny Law, Eiji Satoh and Taiyo Yoshimi
2018
North American Journal of Economics and Finance, Vol.46 (November): 261-271
論文
Exchange rate and utilization of free trade agreements: Focus on rules of origin
為替レートと特恵関税の利用:原産地規則の視点
Kazunobu Hayakawa, Han-Sung Kim and Taiyo Yoshimi
2017
Journal of International Money and Finance, Vol.75 (July): 93-108
概要
論文
自由貿易協定(FTA)の特恵関税率は、加盟国間の貿易において必ずしも利用されている訳ではない。この一つの要因として原産地規則の存在が挙げられる。原産地規則は、特恵関税率の利用にあたって輸出企業が満たすべき条件を規定するものである。本研究では、より安定的に輸出企業が特恵関税率を利用できるような原産地規則設計を主眼に置き、為替レートがFTA特恵税率利用に与える影響について検証する。実証分析では、韓国・ASEAN自由貿易協定(AKFTA)の製品別輸入データを用いる。当該FTAでは多くの製品に関して、「1-FTA非メンバー国からの輸入中間財費用/輸出財価格」として定義される「付加価値率」が、一定水準以上になければならないという原産地規則が採用されている。
企業のPricing-to-Market(PTM)を仮定した理論モデルに基づけば、輸出国通貨の輸入国通貨に対する予期せぬ減価(増価)は、輸出財価格の上昇(下落)を通じて付加価値率を上昇(下落)させ、より企業が原産地規則を満たしやすい(満たしにくい)環境を生む。つまり、企業がPTMに近い価格決定行動をとっている時には、輸出国通貨の予期せぬ減価(増価)は、FTA特恵関税率の利用率を上昇(低下)させる影響を持つと考えられる。本研究の実証分析から、韓国のASEANからの輸入におけるAKFTA特恵関税率の利用において、ASEAN通貨の韓国ウォンに対する予期せぬ減価(増価)が、特恵関税の利用率を上昇(下落)させる影響を持つことが明らかになる。
Kazunobu Hayakawa, Han-Sung Kim and Taiyo Yoshimi
2017
Journal of International Money and Finance, Vol.75 (July): 93-108
論文
Welfare implications of currency integration: Labor mobility and pricing-to-market
通貨統合が経済厚生に及ぼす影響:労働移動性とPTM(Pricing-to-Market)
Taiyo Yoshimi
2016
Global Economic Review, Vol.45, No.1 (February): 78-96
概要
論文
本研究で我々は、1960年代にRobert A. Mundellによって提示された最適通貨圏(Optimum Currency Area, OCA)理論を、新しい開放マクロ経済学(New Open Economy Macroeconomics, NOEM)の枠組みから再検討した。具体的には、労働移動が自由な二つの地域において、独立的金融政策運営権限の喪失が追加的な厚生損失を発生させるか否かをNOEMの枠組みで検証している。ただしここで厚生損失とは、短期的な価格硬直性を原因として発生する経済厚生の損失を指している。多くの実証分析によってその存在が確認されている、Pricing-to-Market(PTM)を想定している点も本研究の特徴である。本研究は二国モデルに依拠しているが、各国固有のマクロ経済ショックとして、生産性および労働の限界不効用に対する外生ショックの存在を想定している。
本論の分析結果は、労働移動が自由な場合でも常に通貨統合の費用が解消される訳ではないことを示している。例えば、消費バスケットにメンバー国間の非対称性があり、かつ非対称な生産性ショックが発生しているような時には、労働移動が自由であっても通貨統合は経済厚生面の費用を伴う。また、各国企業の労働投入バスケットに非対称性があり、かつ非対称な労働の限界不効用ショックが発生している時、PTMのケースでは通貨統合の費用が発生しないのに対して、PTMが存在しないケースでは費用が発生することも明らかになった。この分析結果は、PTMに伴う不完全な為替相場パススルーの存在が、望ましい為替相場制度や通貨制度の選択にも影響を与え得ることを示唆している。
Taiyo Yoshimi
2016
Global Economic Review, Vol.45, No.1 (February): 78-96
論文
Macroeconomic dynamics in a model with heterogeneous wage contracts
非対称的賃金契約モデルにおけるマクロ経済動学
Muneya Matsui and Taiyo Yoshimi
2015
Economic Modelling, Vol.49 (September): 72-80
概要
論文
本研究で我々は、労働組合に所属する労働者と所属しない労働者が共存する動学的確率的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium, DSGE)モデルを構築し、マクロ経済動学と、マクロ経済ショックに関わる経済厚生について分析を行った。本研究の特徴は、一つの企業が組合労働者と非組合労働者を雇用しているような経済を想定していることにある。これにより、企業の労働投入面における両者間の代替効果を直接的に分析することが出来る。
本研究の主たる目標は、企業別労働組合が主流である経済における、マクロ経済ショックの影響を分析することである。企業別労働組合を想定する場合、一つの企業の中に同時に組合労働者と非組合労働者が共存することになる。したがって、企業はどちらの労働力をより重点的に使い、その時の賃金をどのように決定するかという判断に直面する。これは日本経済における組合員と非組合員の間の差異を考察する上からも欠かすことの出来ない視点である。
本論の分析から得られる主な結論は以下の通りである。第一に、非対称的な労働生産性ショックが生み出すマクロ経済変数の分散と厚生損失は、組合労働者と非組合労働者が代替的な時ほど大きくなる。こうした現象は、両者の質的な違いが小さい時、企業が生産面における両者の労働投入を大きく代替させる結果として発生する。また、金融政策ショックがもたらすマクロ経済変数の分散と厚生損失は、労働組合の交渉力が強い時ほど大きくなる。これは、労働組合が賃金を安定させる結果として、労働投入や消費が大きく反応してしまうためである。この分析結果は、労働組合の存在が経済の短期的変動を増幅する影響を持つ可能性を示唆している。
Muneya Matsui and Taiyo Yoshimi
2015
Economic Modelling, Vol.49 (September): 72-80
論文
Lending rate spread shock and monetary policy arrangements: A small open economy model for ASEAN countries
貸付金利スプレッドショックと金融政策:ASEAN諸国に向けた小国開放経済モデル
Taiyo Yoshimi
2014
Asian Economic Journal, Vol.28, No.1 (March): 19-39
概要
論文
本研究で我々は、企業の地場銀行からの借り入れを考慮に入れた、小国開放経済の動学的確率的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium, DSGE)モデルを構築し、ASEANの国々における望ましい為替相場制度運営について考察した。ASEANの国々では今も金融市場が未発達な地域が多く、多くの企業が地場の銀行借入に資金調達を頼っている。本研究ではこうした外部資金調達の特徴を持つ小国開放経済DSGEモデルを構築した。更にASEANのデータを用いてモデルの中の各種構造パラメータをカリブレートし、シミュレーション分析を行った。
企業の地場銀行からの借り入れを導入するにあたって、我々は企業が労働コストの一定割合を地場の銀行から借り入れ、貸付金利に応じた利子返済をしなければならないとの仮定を用いた。更に、地場銀行からの借り入れを明示的に考えるため、銀行のモニタリングコストの存在のせいで貸付金利スプレッドが発生する状況を想定している。また、貸付金利スプレッドについて、外生的なショックの存在を仮定し、当該ショックが景気循環に与える影響についても分析を行った。
本論の分析結果は以下のようにまとめることが出来る。まず、貸付金利スプレッドショックの影響は、企業の銀行貸付依存度に比例する。本研究のカリブレーション結果によれば、マレイシアやベトナムでこの依存度は高く、貸付金利スプレッドショックが経済厚生に与える影響は、外国の金融政策ショックと同程度の規模となる。また、硬直的な金融政策運営(極端な例で言えば固定相場制)は、企業の銀行貸付依存度を所与として貸付金利スプレッドショックの影響を増幅させる。したがって、とりわけ銀行貸付依存度が高く、貸付金利スプレッドショックの影響も大きいような国では、硬直的な為替相場制度運営は厚生面でのコストを増幅するという政策的示唆が得られる。
Taiyo Yoshimi
2014
Asian Economic Journal, Vol.28, No.1 (March): 19-39
論文
Currency integration under labor mobility: When cost is incurred
労働移動性を考慮した通貨統合モデル:統合費用の発生条件
Taiyo Yoshimi
2014
Journal of Economic Integration, Vol.29, No.1 (March): 188-209
概要
論文
本研究で我々は、Robert A. Mundellによって提示された最適通貨圏(Optimum Currency Area, OCA)理論を、新しい開放マクロ経済学(New Open Economy Macroeconomics, NOEM)の枠組みから再検討している。具体的には、労働移動が自由な二つの地域において、独立的金融政策運営権限の喪失が追加的な厚生損失を発生させるか否かをNOEMの枠組みで検証している。NOEMとは、ミクロ経済学的な基礎を備えた開放マクロ経済学の枠組みを指す。NOEMに基づくOCA理論の検証は我々の研究が初めてという訳ではない。本研究の目新しい点は、自由な労働移動が可能な経済を想定し、最も古典的なOCA理論である労働の移動性について分析を試みた点にある。具体的には、自国と外国の企業がそれぞれ、コブダグラス型生産関数を通じて両国の労働力を生産要素として投入するようなケースを考えている。
本研究の分析結果は、労働移動が自由な場合でも必ずしも通貨統合の費用が解消される訳ではないことを示している。特に、労働の限界不効用ショックが二国間で対称的な場合であっても、企業の労働投入にcountry-biasが存在する場合には通貨統合の厚生費用が発生する。反対に、同ショックが二国間で非対称な場合であっても、企業の労働投入ウェイトが二国間で同じであれば、通貨統合の厚生費用は発生しない。つまり、労働移動が完全であっても、企業の生産構造の二国間収斂が進んでいない場合には、必ずしも通貨統合の費用が存在しないと結論づけることは出来ない。ただし、Mundellの議論は金融政策が雇用量の安定に影響を持つことを前提としている(古典的なケインズモデルで分析を行っている)のに対して、本研究のモデルでは失業の存在を仮定していない。分析結果を比較する際、この点については一定の留意が必要となる。
Taiyo Yoshimi
2014
Journal of Economic Integration, Vol.29, No.1 (March): 188-209
論文
Heterogeneity in wage rigidity and monetary policy
非対称な賃金粘着性と金融政策
Muneya Matsui and Taiyo Yoshimi
2013
Review of Integrative Business and Economics Research, vol.2, issue 2 (July): 489-520
概要
論文
本研究で我々は、賃金粘着性に関する非対称性を考慮した動学的確率的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium, DSGE)モデルを構築し、複数の金融政策ルールの下での経済厚生を比較している。具体的には、インフレとGDP変動を考慮して金利の調整を行う通常のテイラールールに加え、賃金インフレを考慮した金融政策ルールについても検討している。つまり本研究の主たる目的は、異なる賃金粘着性を持つ労働者が共存するような経済において、経済厚生上望ましい金融政策とはどういったものかを検討することである。
本論の分析から得られる主な結論は以下の通りである。まず、賃金インフレを考慮に入れた金融政策ルールは、雇用の変動を抑えることを通じて経済厚生を改善する。また、こうした経済厚生改善効果は、より伸縮性の高い賃金インフレを考慮に入れた場合に顕著である。この点について、直観的には以下のようなことが言える。伸縮性の高い賃金は、マクロ経済ショックの発生に際して大きく変動をする。この変動は雇用の変動に直接つながる。雇用の変動は経済厚生に対して負の影響を与える。したがって、伸縮性が高く、景気変動をもたらしやすい賃金の変動を抑えることで、経済厚生を改善することが可能となる。
しかしながら、賃金インフレを考慮に入れた金融政策ルールが、通常のテイラールールよりも必ず経済厚生上望ましいかというと、そういう訳ではない。本研究のシミュレーション分析によれば、家計の効用関数における労働の不効用に対するウェイトが十分に大きい場合、金融政策ルールにおける賃金インフレへの考慮が経済厚生を改善させる。よって、一般的なテイラールールと賃金インフレを考慮に入れた金融政策ルールのどちらが望ましいかを考えるには、このウェイトがどのような値をとっているかについて考慮することが必要になる。
Muneya Matsui and Taiyo Yoshimi
2013
Review of Integrative Business and Economics Research, vol.2, issue 2 (July): 489-520
論文
Analysis on β and σ convergences of East Asian currencies
東アジア通貨に関するβ収束、σ収束分析
Eiji Ogawa and Taiyo Yoshimi
2010
International Journal of Intelligent Technologies and Applied Statistics, vol.3, No.2 (June): 235-261
概要
論文
本研究で我々は、東アジア通貨価値の変遷について分析を加えた。ここでは個別の東アジア通貨価値の変遷よりもむしろ、東アジア各国の通貨価値が互いに収斂傾向にあるのか、発散傾向にあるのかという点に着目をする。とりわけ、2005年7月に行われた中国人民元為替制度の変更が、収斂・発散に有意な影響を与えていたかという点に注目する。
分析を行うにあたって、東アジア通貨の加重平均として定義され、経済産業研究所(RIETI)のプロジェクトとして成果として時系列で公表されている、Asian Monetary Unit (AMU)のデータを利用する。また、東アジア通貨の価値が収斂に向かっているのか、発散傾向にあるのかを分析するにあたって、ここでは経済成長の分析でよく用いられるβ収斂、σ収斂の手法を応用している。
本研究の分析結果は以下のようにまとめることが出来る。まず、中国当局は2005年7月、為替相場制度を米ドルペッグから、通貨バスケットに対する管理フロート制度に変更することをアナウンスした。しかしながら、我々の分析では、(分析時点において)人民元の価値が引き続き米ドルに対して安定的になるよう、為替運営がされていることが示唆された。つまり、少なくとも分析時点においては、人民元改革がアナウンスされたものの、事実上改革前とさほど変わらない為替相場運営がされていたことが予想される。
また、β収斂、σ収斂分析によれば、東アジア域内通貨の価値は、特に2005年以降互いに発散傾向にあることが明らかになった。ただし、こうした発散傾向は中国の人民元改革ではなく、むしろ国際資本移動の変化や世界金融危機の影響によるものであることが示唆された。こうした東アジア域内通貨の発散傾向を解釈するにあたって、東アジアの国々が互いに異なる為替相場制度を採用していることが重要と考えられる。つまり為替相場運営について、東アジア域内の当局間での協調行動がないことが、結果として通貨価値のバラつきを拡大させてしまっていることが予想される。
Eiji Ogawa and Taiyo Yoshimi
2010
International Journal of Intelligent Technologies and Applied Statistics, vol.3, No.2 (June): 235-261
論文
The effects of financial integration on structural similarity: Consumption risk-sharing and specialization
金融市場統合が産業構造の対称性に与える影響:消費リスクシェアリングと特化
Taiyo Yoshimi
2009
The International Economy, No.13 (November): 50-64
概要
論文
本論は1983年から2003年までのOECD加盟国パネルデータを用いて、各国の産業特化指数が金融市場の開放度に有意な影響を受けているのか否か、更に二国ペアで見たときの産業構造類似性が金融市場の統合度に有意な影響を受けているのか否かを検証したものである。理論的には、ある国の金融市場が対外的に開放されるとき、当該国は外国との資金貸借によって消費のリスクシェアリングを進め、消費の平準化を実現することができる。言い換えれば金融市場が開放されれば、当該国の消費水準は生産水準の変動に影響を受けずに済むことになる。したがって金融市場の開放が進めば進むほど、むしろ各国には生産の特化を進めて特化の利益を追求するインセンティブが働くと考えられる。これを二国のペアで見れば金融市場の統合が進むほど、二国間の産業構造類似性は低下するとの理論的帰結が得られる。本論はこの理論仮説を実証的に検定し、裏付けた研究である。
Taiyo Yoshimi
2009
The International Economy, No.13 (November): 50-64
論文
景気循環同調性の決定要因: パネルデータ分析
吉見太洋
2008
『金融経済研究』, Vol.27, 25-46ページ, 10月
概要
論文
本論は1983年から2003年までのOECD加盟国について、景気循環同調性の決定要因を分析している。相互貿易の増大は経済の相互依存を高める結果として景気循環の同調性を高めることが予想される。一方で分業関係が進展し、各国が異なる生産性ショックを持つような産業に特化を進めれば(各国間の産業構造の類似性が低下すれば)景気循環の同調性は低下すると考えられる。したがって本論ではとりわけ相互貿易と産業構造類似性が景気循環同調性に有意な影響を与えているのかという点に着目し、分析を進めている。本論の分析結果によれば、少なくとも1990年以降において、産業構造類似性の下落が景気循環同調性に対して有意な下落圧力をもたらしていた。一方で相互貿易はサンプル期間の選択に関わらず頑健な影響を与えてこなかった。したがって本論の分析から景気循環同調性の決定要因としては産業構造の類似性が重要であるとの示唆が得られた。
吉見太洋
2008
『金融経済研究』, Vol.27, 25-46ページ, 10月
論文